年末、久々に比較的大きなものを3Dプリンタで出力してみました。
すると、端がベッドから剥離し、底が湾曲してしまいます。
ベッドにカプトンテープを貼って以来、これまで接地面積が大きいものはほとんど剥離することはありませんでした。この突然の現象を不思議に思い、原因を探ってみることにしました。
まず、思い付いたのはカプトンテープの劣化です。
しかし、目視する限り、目立った劣化はありません。
次に気になったのはベッドの温度です。
なぜなら出力した日は寒い日にもかかわらず、暖房を入れず、これほど室温が低い条件で出力したのは初めてだったからです。
設定温度の変更はしていませんので、正しく温度制御されている限り、いくら室温が変化してもベッドの温度が変わることはないはずです。
しかし、これまで実際にベッドの温度を測定したことは無かったので、念の為、測定してみることにしました。
ベッドの温度を115℃に設定し、暖房を入れ、室温20℃の状態でベッド上の5x5のポイントについて温度を測定します。
想定に反し、ベッドの温度は、設定温度より平均で24℃も低く、しかもばらつきが大きく、最大値と最低値で15℃も開きがあります。
この原因について考えてみます。
まず、設定温度との差異は、温度センサの測定位置によるものと思われます。温度センサであるサーミスタは、ベッドのアルミ板とヒーターの間にあります。
この箇所が指定温度を維持しても、3mmもあるアルミ板の上部では、熱が伝わる間に、当然、冷やされてしまいます。
次に温度のばらつきですが、これはヒーターの加熱能力が箇所によりむらがあると考えられます。広い範囲を均一に加熱するのは難しいのでしょう。
さて、これが室温によりどう変化するのか調べてみます。
暖房を切り、窓を開けて外気を入れて室温を下げます。
室温は12℃まで下がりました。この状態で、先ほどと同様にベッドの温度を測定します。
平均で設定値より27℃ほど低い結果となりました。これは先ほどの室温20℃に比べ2.5℃程低い値です。やはり、アルミ板の3mmの厚みを伝わる間に、より低い室温で冷やさているのです。
更にばらつきの方は、最大値ー最低値間が22℃と室温20℃の時より更に開きが大きくなっています。
室温20℃から12℃の温度差と測定温度との関係をグラフにすると、状況がはっきりします。
加熱能力が低い箇所ほど室温による影響が大きいのです。
つまり、室温が低いと、ベッドの加熱能力が低い箇所の温度低下が顕著に現れ、材料を十分温めることができず、収縮と粘性低下により剥離を起こしてしまうのです。
これを根本的に解決するには、センサの位置をベッド表面に移動し、かつ、ヒーターのばらつきを抑えるしかありません。
しかし、これは大事になってしまうので、避けたいところです。
そこで、当面は室温を下げすぎないように空調で調整し、ベッドの温度は室温で冷却されることを見越して、室温に応じ高めに設定することにしました。
上記散布図の回帰直線から12℃の-2σ点が20℃で約10℃上がった事と、これまで正常に印刷していた時の室温を25℃と仮定し、出力する時点の室温から次の式でベッドの温度を調整することにしました。
ベッド温度 = 115℃ + (25℃ ー 室温) x 1.25
例えば室温12℃の場合、
ベッド温度 = 115℃ + (25℃ ー 12℃) x 1.25 ≒ 131℃
となります。