「お客さん、これは買った方が安いですよ。」修理の見積依頼をした時に、度々耳にする言葉です。
製品が大量生産され、部品の製造コストが低くなると、一番高いものが人件費となってしまいます。
特に修理は調査から部品交換までの長い工程を、熟練した技術者が行う訳ですから、高い工賃を請求されても仕方のない事かもしれません。
修理を依頼するにしても、最近では内部の基板ごと交換するだけで、部品単位に交換されることは稀になりました。
確かに、工数や要求される技術者のスキルと部品代を天秤にかけると、その方が安上がりなのでしょう。
まだ使える部品ごと捨ててしまう訳ですから勿体ないような気がしますが、費用対効果を考えるとやむ得ない事なんでしょうね。
私のマウスが、突然、おかしな動作をするようになりました。
文章をドラッグ中に勝手に解除されたり、ブラウザの戻るボタンを押すと、二つ前に戻ってしまったりします。
このマウスは保証期間内であれば修理などはせず、新品に交換してもらえるそうです。工賃と部品代のバランスという点では極端な対応です。
今回は保証期間も過ぎていることもあり、新しく買い直すことも考えましたが、問題の個所が限定しているので、直してみることにしました。
ユーザーによる修理はメーカーの保証・修理が受けられなくなる可能性があります。
どちらの現象も左ボタンに原因があることは明らかです。
初めは、左ボタンのスイッチ内部の接点の接触不良を疑いましたが、左ボタンを押す力を一定にしてもドラッグが解除されてしまう現象の説明がつきません。
そこで、スイッチと基板の半田クラックではないかと考えました。
まず、マウスソールを剥がします。
その下にネジが現れます。
ネジは、トルクス(T6)ドライバで外します。
電池穴に指を入れて、本体を上下に分離します。
上下を接続しているコードを基板から外します。
ローラーを固定しているピンを外します。
ローラーを外します。
基板とローラーの間にあるばねが無くならないように外しておきます。
センサーからのケーブルを外します。
黒いストッパーを上に持ち上げると、フィルムケーブルが外れます。
基板を固定しているねじをすべて外します。
これで、基盤が外せます。
問題の左ボタンのマイクロスイッチですが、半田の状態を見る限り、特にクラックはないようです。
しかし念のため、再半田してみました。
組み立てて、テストしてみましたが、やはり直っていません。
どうも、スイッチ本体のようです。
マイクロスイッチの型番はOMRON D2FC-F-7Nです。
インターネットで検索してみると、同じような不具合で交換している人が多いことに驚かされました。
ネットで注文しても直ぐにはとどきませんし、中の様子も知りたいので、駄目元で分解してみることにしました。
スイッチのカバ―は左右の底にある爪で固定されています。
先の細いものでカバーの底を広げて外します。
私は先の細いピンセットを使用しました。
爪を外すとボタンと一緒にカバーが外れ、内部が現れます。
可動ばねと接点が見えます。
しかし、想像していたものとは違い、接点には特別な部材がなく、板バネがリード用の金属板に直接接しているように見えます。
私が過去に見たスイッチの多くはマカロンのような接点部品が付いていました。それに比べれば、極めて質素な造りです。コスト重視の為なんでしょうか。
ボタンが当たる場所を押してみると、クリック音とともに可動ばねが下の接点に接触します。
下の接点以外に、他に支えている場所が無いので、物理的には確実に接触しているように見えます。
そうなると考えられるのは接点の表面に不純物が付着していることです。
そこで、細かいサンドペーパーで研磨してみることにしました。
サンドペーパーを細く切り取ります。
今回は800番を使用しました。
削りすぎないように、そっと接点を擦ります。
数回擦った時、突然ポヨヨヨーンとばねが外れてしまいました。
ちょっと焦りましたが、折角なので、接点の様子を詳しく見てみました。
やはり、特別な接点部材は付いていません。
ばね側は凸に打ち出しているだけで、下の接点はリード用の金属板を曲げているだけです。
これでは表面が酸化しても仕方がないような気がします。
そう考えると、ばねや金属板がくすんでいるように見えます。
改めて両方の接点を軽く研磨し、表面のくすみが無くなったことを確認しました。
さて、取れたしまったばねを元に戻すのは大変です。
ばねは接点の反対側の支点部分と、真ん中の弧の字の圧縮ばねの部分の二か所を、ひっかけて取り付けるようになっています。
試行錯誤しながら、30分かけてようやく取り付けられました。
まず、上下の接点の間にばねを入れ、支点部分のみをひっかけます。
次に支点部分が外れないように指で押さえ、圧縮ばねの弧の字の部分を先の細いピンセットでつまみ、下方向に力を加えて土台の金属板にひっかけます。
この際、ばねは斜めにずれてしまうので、ピンセットでまっすぐに戻します。
この作業は言葉で説明するほど簡単ではなく、兎に角細かい作業で、震える指と老眼と戦いながら辛抱強く行わなければなりませんでした。
再び組み立てて、テストしてみます。
問題の現象は全くなくなりました。
どうやら、接点に酸化被膜や硫化被膜の形成、あるいは炭化物などの付着により、接触抵抗が大きくなったことで、出力電圧がスレシホールドレベルの辺りをうろうろしていたようです。
今回は部品代は全くかかりませんでしたが、時間と労力は結構かかってしまい、メーカーの保証対応とは対極の処置となりました。
スイッチの値段が送料込みで500円もしない事を考えれば、スイッチぐらいは交換した方が良策だったかもしれませんね。
ローラーや基盤も取り外さずに修理したので、30分程度で修理が完了し(バネも外さないよう注意してヤスリがけしたら大丈夫でした笑)、現在快適に動作しております。
記事が大変詳しく書かれていて、とても参考になりました。どうもありがとうございます!
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