マウス(Logicool M950)のボタン動作不良

投稿 2013/12/08 (日) 午後 01:03 | パソコン | hotall

「お客さん、これは買った方が安いですよ。」修理の見積依頼をした時に、度々耳にする言葉です。
製品が大量生産され、部品の製造コストが低くなると、一番高いものが人件費となってしまいます。
特に修理は調査から部品交換までの長い工程を、熟練した技術者が行う訳ですから、高い工賃を請求されても仕方のない事かもしれません。

修理を依頼するにしても、最近では内部の基板ごと交換するだけで、部品単位に交換されることは稀になりました。
確かに、工数や要求される技術者のスキルと部品代を天秤にかけると、その方が安上がりなのでしょう。
まだ使える部品ごと捨ててしまう訳ですから勿体ないような気がしますが、費用対効果を考えるとやむ得ない事なんでしょうね。





私のマウスが、突然、おかしな動作をするようになりました。
文章をドラッグ中に勝手に解除されたり、ブラウザの戻るボタンを押すと、二つ前に戻ってしまったりします。

このマウスは保証期間内であれば修理などはせず、新品に交換してもらえるそうです。工賃と部品代のバランスという点では極端な対応です。

今回は保証期間も過ぎていることもあり、新しく買い直すことも考えましたが、問題の個所が限定しているので、直してみることにしました。

この文書は個人的なものであり、読者による修理を推奨するものではなく、内容について一切の責任を負いかねます。
ユーザーによる修理はメーカーの保証・修理が受けられなくなる可能性があります。




どちらの現象も左ボタンに原因があることは明らかです。
初めは、左ボタンのスイッチ内部の接点の接触不良を疑いましたが、左ボタンを押す力を一定にしてもドラッグが解除されてしまう現象の説明がつきません。
そこで、スイッチと基板の半田クラックではないかと考えました。



まず、マウスソールを剥がします。
その下にネジが現れます。




ネジは、トルクス(T6)ドライバで外します。
電池穴に指を入れて、本体を上下に分離します。

上下を接続しているコードを基板から外します。




ローラーを固定しているピンを外します。




ローラーを外します。




基板とローラーの間にあるばねが無くならないように外しておきます。




センサーからのケーブルを外します。
黒いストッパーを上に持ち上げると、フィルムケーブルが外れます。




基板を固定しているねじをすべて外します。
これで、基盤が外せます。




問題の左ボタンのマイクロスイッチですが、半田の状態を見る限り、特にクラックはないようです。
しかし念のため、再半田してみました。
組み立てて、テストしてみましたが、やはり直っていません。
どうも、スイッチ本体のようです。




マイクロスイッチの型番はOMRON D2FC-F-7Nです。
インターネットで検索してみると、同じような不具合で交換している人が多いことに驚かされました。
ネットで注文しても直ぐにはとどきませんし、中の様子も知りたいので、駄目元で分解してみることにしました。




スイッチのカバ―は左右の底にある爪で固定されています。
先の細いものでカバーの底を広げて外します。
私は先の細いピンセットを使用しました。




爪を外すとボタンと一緒にカバーが外れ、内部が現れます。
可動ばねと接点が見えます。




しかし、想像していたものとは違い、接点には特別な部材がなく、板バネがリード用の金属板に直接接しているように見えます。
私が過去に見たスイッチの多くはマカロンのような接点部品が付いていました。それに比べれば、極めて質素な造りです。コスト重視の為なんでしょうか。




ボタンが当たる場所を押してみると、クリック音とともに可動ばねが下の接点に接触します。
下の接点以外に、他に支えている場所が無いので、物理的には確実に接触しているように見えます。
そうなると考えられるのは接点の表面に不純物が付着していることです。




そこで、細かいサンドペーパーで研磨してみることにしました。
サンドペーパーを細く切り取ります。
今回は800番を使用しました。




削りすぎないように、そっと接点を擦ります。




数回擦った時、突然ポヨヨヨーンとばねが外れてしまいました。
ちょっと焦りましたが、折角なので、接点の様子を詳しく見てみました。

やはり、特別な接点部材は付いていません。
ばね側は凸に打ち出しているだけで、下の接点はリード用の金属板を曲げているだけです。
これでは表面が酸化しても仕方がないような気がします。
そう考えると、ばねや金属板がくすんでいるように見えます。




改めて両方の接点を軽く研磨し、表面のくすみが無くなったことを確認しました。








さて、取れたしまったばねを元に戻すのは大変です。
ばねは接点の反対側の支点部分と、真ん中の弧の字の圧縮ばねの部分の二か所を、ひっかけて取り付けるようになっています。
試行錯誤しながら、30分かけてようやく取り付けられました。

まず、上下の接点の間にばねを入れ、支点部分のみをひっかけます。
次に支点部分が外れないように指で押さえ、圧縮ばねの弧の字の部分を先の細いピンセットでつまみ、下方向に力を加えて土台の金属板にひっかけます。
この際、ばねは斜めにずれてしまうので、ピンセットでまっすぐに戻します。

この作業は言葉で説明するほど簡単ではなく、兎に角細かい作業で、震える指と老眼と戦いながら辛抱強く行わなければなりませんでした。




再び組み立てて、テストしてみます。
問題の現象は全くなくなりました。

どうやら、接点に酸化被膜や硫化被膜の形成、あるいは炭化物などの付着により、接触抵抗が大きくなったことで、出力電圧がスレシホールドレベルの辺りをうろうろしていたようです。

今回は部品代は全くかかりませんでしたが、時間と労力は結構かかってしまい、メーカーの保証対応とは対極の処置となりました。
スイッチの値段が送料込みで500円もしない事を考えれば、スイッチぐらいは交換した方が良策だったかもしれませんね。
« PrevNext »

コメント

投稿 オルラボ | 2014/03/14 (金) 午後 01:16 | 13時16分10秒

私の使っているマウスもまったく同じ現象が起きました。保証期間も過ぎているし、もう寿命かな…と諦めかけていましたが、この記事を見つけてダメ元で修理したところ、症状がなくなりました!
ローラーや基盤も取り外さずに修理したので、30分程度で修理が完了し(バネも外さないよう注意してヤスリがけしたら大丈夫でした笑)、現在快適に動作しております。
記事が大変詳しく書かれていて、とても参考になりました。どうもありがとうございます!
------------------

投稿 hotall | 2014/03/14 (金) 午後 02:23 | 14時23分44秒

コメントいただき、ありがとうございます。
記事が多少なりともお役に立てて良かったです。

マウスは世代交代が激しく、折角手に馴染んでも、故障する頃には同じ製品が無くなっています。
私も、過去にいくつものマウスを買い替えてきました。その度に、以前使っていたマウスが恋しくなります。

小電力の電子機器ならば、少なくても10年は使えるはずなので、それより前に故障するのは、設計や部品に問題があると私は考えています。
今回の故障も、スイッチの接点の問題でした。本文にも書きましたが、接点には耐久性に対する処置が全く施されていません。

高級を謳うマウスなのですから、初期性能だけでなく、メーカーには耐久性にも配慮した造りにしてもらいたいと願って止みません。
それが叶わない現在ですから、ユーザーが手をかけて、長く使ってあげるしかありませんね。
------------------

投稿 sakuhaya | 2015/12/13 (日) 午前 09:30 | 09時30分01秒

この記事どおり修理したらほんとに直りました。
ほんとにありがとうございました
------------------

投稿 hotall | 2015/12/14 (月) 午前 10:12 | 10時12分23秒

コメントありがとうございます。
お役に立てて幸いです。
皆様のお声が励みになります。
------------------

投稿 yousaygat | 2015/12/25 (金) 午後 03:47 | 15時47分20秒

保証期間外で諦めていましたが、こちらの記事に辿り着き大変助かりました。

有り難う御座います。
------------------

投稿 hotall | 2016/01/11 (月) 午前 10:07 | 10時07分56秒

コメントありがとうござます。
私も、今でもこのマウスを使っています。
手に馴染んだマウスは手放せませんね。
------------------

投稿 knjtrsm | 2016/05/30 (月) 午前 11:24 | 11時24分45秒

こんな素晴らしいページを作ってくれまして、本当にありがとうございました。
MX950の動きがおかしく、もうダメかと思い、MX2000を買うしかないと、思っておりました。
最後に何か方法はないかと、検索してこのページにたどり着きました。

おかげさまで、購入時の状態に戻り、買わずに済ました。

スクロールは外すことが出来ませんでしたが、板バネが取れないように注意しながらスイッチボックスを外し、研磨し、組み立て、無事に治りました。

きっと誰に聞いても「はずれ商品だとか、寿命だとか」で買い直しだったことでしょう。

見ず知らずに方から、こんなに丁寧に教えて頂き、心から感謝しています。

ありがとうございました。
------------------

投稿 hotall | 2016/06/03 (金) 午後 02:37 | 14時37分11秒

コメントありがとうございます。
こんなに喜んでいただき、恐縮いたします。
最近は、投稿もサボりがちでしたが、また、再開したいと思います。
------------------

投稿 ねおす | 2016/10/13 (木) 午後 07:44 | 19時44分04秒

ありがとうございました!
一言お礼を言わせて下さい。

長年愛用していた同機(950)がドラッグ中に突然解除されたりクリックが効かなかったりシングルクリックがダブルクリックになったりと挙動がおかしくなりどうにか出来ないものかとWebを彷徨っていてこちらの記事を発見いたしました^^
上から順に追ってページを見てみると自分とまったく同じ症状で「これだっ!」と思い分解清掃をやってみる事に。

注意深く上から読み進めながら接点のバネ付近の記事になるやいなや、ブロガー様と同様にバネがぽよよ〜ん。。。汗 やってしまいました、、、

私も同じく老眼でルーペとマイナスとピンセットを駆使しながら、約2時間の格闘の末なんとか正常に^^;
修理を無事終える事が出来ました。

細部まで丁寧に書かれた記事と分かりやすい写真付きで、途中挫折しそうになっても諦めず、不器用な自分にも絶対出来ると思い最後まで無事に終える事が出来ました。

なんでも壊れたら買い換えればいいという風潮のご時世だからこそ、自分が愛用する物は自分で修理して長く愛でることが大切な事だと改めて気づかされました。

このような神記事を書かれた筆者様に心から感謝いたします。

見ず知らずの通りすがりで、しかも乱文で申し訳ございません。
------------------

投稿 hotall | 2016/11/08 (火) 午前 11:56 | 11時56分29秒

チェックが遅くなり申し訳ありません。
ご丁寧なコメントありがとうござます。

このような記事でも貴方のお役に立てて幸いです。

私はDIYを趣味にしていますが、老眼や手先の衰えで細かな作業も苦労するようになりました。
それでも、拡大鏡を掛けて腕を固定しながら物づくりを楽しんでいます。
成果が見え辛くなったこの時代、物に手をかけることは、私にとって数少ない実感できる楽しみとなりました。
この楽しみを、少しでも多くの皆さんと共有できればと思っております。
------------------

コメントする